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2026.09.07

A5和牛はなぜこんなに増えた?大量流通の裏側と、1129が選ぶ”赤身”という逆張り

目次

  1. 1. A5が”誰でも作れる”時代になった
    1. 1-1. 飼料設計がマニュアル化された今
    2. 1-2. 「特別感がない」という現場の声
    3. 1-3. かつてA5は「4%の奇跡」と呼ばれていた
  2. 2. それでも「本当に美味しいA5」はある──ただし基準は格付けじゃない
    1. 2-1. A5の意味を、いま一度正しく説明します
    2. 2-2. 「霜降りの入り方」と「脂の質」はどこで差がつくのか
    3. 2-3. 1129が問いかけたいこと
  3. 3. 1129が向き合っているのはその”外側”──赤身の黒毛和牛経産牛という選択肢
    1. 3-1. 経産牛とは何か
    2. 3-2. 手間をかけてしか出せない価値
    3. 3-3. 赤身という、もうひとつのものさし
  4. 4. 国内で均質化が進むなら、勝負は海外へ──1129の海外戦略
    1. 4-1. WAGYUのコモディティ化という現実
    2. 4-2. トレーサビリティという、価格に頼らない武器
    3. 4-3. Keisan-Gyuという新しい選択肢、”肉の通訳”という立ち位置
  5. 5. まとめ:みんなが同じ土俵に立つ時代だからこそ、違うものさしを

1. A5が”誰でも作れる”時代になった

1-1. 飼料設計がマニュアル化された今

先日、あるニュース番組で「A5はもはや当たり前になった」というテーマが取り上げられていました。内容を要約すると、飼料設計や給餌の方法がマニュアル化されたことで、その通りに育てれば高い確率でA5等級に到達できるようになった、という生産現場の実感が紹介されていました。品種改良や肥育技術の積み重ねによって、かつては狙って出せるものではなかったA5が、今では「設計すれば辿り着ける」ものに変わりつつあります。

1-2. 「特別感がない」という現場の声

同じ番組では、精肉店関係者から「もうA5であること自体に特別感はない」という声も紹介されていました。等級だけを見て仕入れを判断する時代が終わりつつある、という現場からの率直な感覚だと思います。そのうえで、本当に美味しいA5を見分けるポイントとして挙げられていたのは、等級表示そのものではなく「霜降りの入り方」と「脂の質」でした。

出典:newsランナー〈カンテレNEWS〉「いまや『A5』が当たり前!?」

1-3. かつてA5は「4%の奇跡」と呼ばれていた

1129のオーナー大隣も、20年ほど前にはA5を出すことを目標にしていた時期があります。当時はA5等級が非常に希少で、現場では「4%の奇跡」と呼ばれていたそうです。「A5等級の黒毛和牛を出せたら、お祝いに飲みに行こうというくらい、若いころの私も業界的にもA5等級を出すことが目標のひとつでした」というのが、そのときの実感だといいます。

技術の進歩でA5が安定して作れるようになったこと自体は、畜産業界の努力の成果であり、否定するものではありません。ただ、「誰が育ててもA5に届く」時代になった今、格付け以外の場所に評価軸を持つことの意味は、以前よりも大きくなっているのではないでしょうか。

2. それでも「本当に美味しいA5」はある──ただし基準は格付けじゃない

2-1. A5の意味を、いま一度正しく説明します

A5の「A」は歩留等級、「5」は肉質等級を表します。肉質等級は、脂肪交雑(いわゆる霜降りの度合い)だけでなく、肉の色沢、肉の締まり・きめ、脂肪の色沢と質という4項目で評価されます。つまりA5は「霜降りが多い」ことだけを示す記号ではなく、複数の基準を満たした規格だということになります。

2-2. 「霜降りの入り方」と「脂の質」はどこで差がつくのか

ニュースで指摘されていた「霜降りの入り方」と「脂の質」は、まさにこの肉質等級の中身に関わる部分です。同じA5でも、サシの粒が細かく均一に入っているものと、大きく偏って入っているものとでは食感も口どけも変わります。脂の質にしても、口の中でどう溶けるか、後味がどれだけすっきりするかは、等級の数字だけでは表現しきれません。A5という規格をクリアした先に、まだ差が存在しているということです。

2-3. 1129が問いかけたいこと

1129が投げかけたいのは「A5は無意味だ」という話ではありません。技術と設計の積み重ねでA5に到達しやすくなったこと自体は、業界の努力の成果です。ただ、A5という規格だけで、脂の質や食後の印象、赤身の旨みといった要素まですべてを測れるわけではありません。「A5=優れた規格である」ことと、「A5がすべての人にとって一番おいしい」ことは、分けて考える必要があると考えています。

3. 1129が向き合っているのはその”外側”──赤身の黒毛和牛経産牛という選択肢

3-1. 経産牛とは何か

経産牛とは、出産を経験した雌牛を指す言葉であり、経産牛イコール黒毛和牛というわけではありません。1129が扱っているのは、その中でも黒毛和牛の経産牛にかぎられます。しかも、どの牧場の経産牛でもよいわけではなく、鹿児島市郡山町の末吉畜産をはじめとする、限られた牧場の個体だけを扱っています。炊きエサを扱える技術があり、痩せた経産牛を1129が求める肉質まで再肥育できると確認できた牧場だけが対象です。

3-2. 手間をかけてしか出せない価値

母牛は繁殖牛として過ごす期間、太らせることではなく健康維持を優先した飼養管理を受けるため、出産を終えた経産牛は痩せていることが多くあります。この状態から肉牛として仕上げ直すには技術が必要です。1129では、国産の米ぬか・大豆・大麦・ふすまなどを独自にブレンドし、時間をかけて炊いた「炊きエサ」を経産牛の再肥育に使い、個体の状態を見ながら時間をかけて肉質を整えています。マニュアル通りに育てれば誰でもたどり着けるA5とは対照的に、こちらは個体ごとの見極めと手間でしか作れない味だと言えます。

3-3. 赤身という、もうひとつのものさし

1129が経産牛で伝えたいのは「赤身がうまい黒毛和牛の経産牛」という価値です。噛むほどに旨みが広がる、サシの量では測れない旨み、脂に頼りすぎない肉の味。これは霜降りを否定するものではなく、霜降りとは別の場所にある評価軸として提示しています。誰もが同じ土俵でA5を目指す時代だからこそ、この「別のものさし」の意味は増しているのではないでしょうか。

4. 国内で均質化が進むなら、勝負は海外へ──1129の海外戦略

4-1. WAGYUのコモディティ化という現実

海外に目を向けると、状況はさらにシビアです。「WAGYU」はすでに日本産だけを指す言葉ではなくなりつつあり、オーストラリア産や米国産のWAGYUとの競争が現実のものになっています。国内でA5が「誰でも作れるもの」になりつつあるのと同じように、海外でも「サシの入った高級牛肉」という括りでのコモディティ化が進んでいます。価格だけで勝負しようとすれば、消耗戦になりかねません。

4-2. トレーサビリティという、価格に頼らない武器

そこで1129が武器として位置づけているのが、個体識別番号による生産履歴の裏付けです。どの牧場で、どのように育てられ、どんな飼料設計を経てきたのかを、個体単位で説明できること自体が、食の真正性を重視する成熟した市場では強い信頼材料になります。これは価格競争とは別の軸での差別化であり、規格の数字では表現できない部分でもあります。

4-3. Keisan-Gyuという新しい選択肢、”肉の通訳”という立ち位置

海外でも「WAGYU」は知られていても、黒毛和牛の経産牛(Keisan-Gyu)はまだほとんど知られていません。1129は、この認知されていない価値を伝えることに加えて、海外バイヤーや飲食店が求める仕様と、国内の生産者・加工現場との間を橋渡しする「肉の通訳」としての役割も担っています。部位・カット仕様・加工指定を、双方が理解できる形に落とし込むこの機能は、単に和牛を輸出するだけの業者にはない強みです。

5. まとめ:みんなが同じ土俵に立つ時代だからこそ、違うものさしを

エサをマニュアル通りに与えれば、高い確率でA5に届く。そういう時代になったこと自体は、畜産業界が積み重ねてきた技術の成果であり、否定するものではありません。ただ、同じ土俵に立つ生産者が増えたということは、格付け以外の場所で語れるものを持っているかどうかが、これまで以上に問われるということでもあります。

1129が向き合っているのは、その格付けの”外側”にある価値です。手間をかけてしか出せない赤身の旨み、個体単位で説明できる生産履歴、そして国内外の現場をつなぐ通訳としての役割。A5という規格を否定せず、その隣に、もうひとつのものさしを置く。それが1129の考える、これからの和牛との向き合い方です。


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