

直近でアメリカ、ドバイ、タイの市場をこの目で見てきた、株式会社1129代表・大隣の視点から、現在のグローバル和牛市場のリアルと私たちが進むべき道について語らせていただきます。
アメリカ、ドバイ、そしてタイ。和牛輸出の最前線を歩き、現地のバイヤーやシェフと対話を重ねる中で、私は今、猛烈な危機感を抱いています。
かつて「和牛」は日本の専売特許でした。しかし今、世界で「WAGYU」という言葉は、日本産牛肉ではなく「サシの入った高級牛肉」の総称(一般名詞)になり果てています。
実際、海外のレストランで提供されている「WAGYU」の多くはオーストラリア産やアメリカ産であり、日本産は「ジャパニーズ和牛」という数ある分類の一つに甘んじているのが現状です。
数十年前の遺伝資源の流出により、海外産WAGYUも日本の血統を継ぎ、見た目の「霜降り」だけなら日本産に肉薄しています。
このまま「A5等級」という記号だけに頼ったブランディングを続けていれば、日本産和牛は価格競争の波に飲み込まれ、市場から淘汰されてしまう。私はそう断言します。
私がアメリカで目にしたのは、高価格なA5ランクを扱うことの数学的な打撃です。米国ではブラジル産牛肉が低関税枠を年初の数日で使い切ってしまうため、日本産和牛には年の大半で26.4%という高率な枠外関税が課せられています。
1ポンド200ドルの高級な和牛であれば、関税だけで1ポンドあたり50ドル以上が上乗せされます。
これに加えて、日本国内の品種改良が進んだ結果、和牛去勢牛のA5出現率は今や約71%(2025年実績)に達しており、A5はもはや「希少な最高級品」ではなく「どこでも買えるコモディティ(一般品)」になっています。
アメリカやドバイの現場シェフたちが求めているのは、もはや「A5」というラベルではありません。彼らが切実に求めているのは、「自分の皿に完璧に適合し、無駄(ロス)が出ないスペック」と、食べ飽きない「肉本来の旨み」なのです。
海外産WAGYUがどれほど見た目を似せてきても、日本産和牛に絶対に真似できない強みがあります。それが、国家単位で運用されている個体識別番号による厳格なトレーサビリティシステムです。
1頭単位で血統、飼料、農家、加工場までの履歴を誰でも追える透明性は、食品の真正性を重視するシンガポールやドバイの成熟した市場において、圧倒的な信頼の証となります。
日本で生まれ、日本の水と稲わらで育てられた「真正なる和牛」であることを証明できるのは、個体識別番号を持つ私たちだけなのです。
この「本物の和牛」の価値を成立させるために、私たちが提案するのは、従来の霜降り信仰とは別の、「経産牛(Keisan-Gyu)」という新しいおいしさのものさしです。
繁殖という大役を終えた母牛を、鹿児島の伝統的な「炊きエサ」で丁寧に再肥育する。手間はかかりますが、そうして仕上げた肉は、脂の重さに頼らない「凝縮された赤身の旨み」を宿します。
これは世界的なヘルシー志向や、命を活かしきるサステナブルな価値観に合致し、欧米の美食家層を熱狂させるポテンシャルを持っています。
そしてもう一つ、私たちが担うべきは「肉加工の通訳」という役割です。
海外のシェフがステーキや肉寿司に何を求めているのかを、日本の加工所が理解できる精密な「図面(スペック指示)」に翻訳する。
これによってミスマッチと廃棄ロスをなくし、和牛ビジネスを「記号の取引」から「実利のパートナーシップ」へと昇華させます。
和牛はもはや単なる農産物ではなく、日本の感性を象徴する「食の外交官」です。
私たちは、単なる商社として肉を流すのではありません。生産現場の誇りと海外の需要を一本の線でつなぎ、「日本産和牛こそが、世界最高峰の肉体験である」というブランディングを成功させてみせます。
既製品ではない、あなたのビジネスに適合する「本物の和牛」を、共につくり上げていきましょう。