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2026.03.09

A5が“当たり前”になった時代に、僕らが経産牛で示したい和牛の新基準

目次

  1. 1. 憧れだったA5が、いま「身近」になった
    1. 1-1. 2000年と2025年で変わったA5の“希少性”
    2. 1-2. 品種改良と早期仕上げで起きたこと
    3. 1-3. A5が増えたのは悪いことではない。ただ、話はそこで終わらない
  2. 2. そもそも「A5」の意味は、意外と知られていない
    1. 2-1. 一般消費者は“等級表記の中身”まで理解していないことが多い
    2. 2-2. Aは歩留等級:取れる肉の量という合理性
    3. 2-3. 5は肉質等級:霜降りだけでなく色・きめ・脂も含む評価
  3. 3. それでも「等級=味」ではない理由
    1. 3-1. 等級は“規格”であり、味そのものを測る物差しではない
    2. 3-2. 見た目の良さが評価を独占すると、取りこぼされる価値がある
    3. 3-3. 胃もたれ、香り、余韻、噛むほどに出る旨みは別軸で存在する
  4. 4. 1129が「黒毛和牛の経産牛」でやりたいこと
    1. 4-1. 経産牛は簡単じゃない。だからこそ価値を作れる
    2. 4-2. 再肥育と手間のかかる炊きエサで、旨みを“仕上げる”
    3. 4-3. サシの多寡ではなく、旨みの密度で評価される肉へ
  5. 5. 経産牛が示す、新しい“おいしさ”のものさし
    1. 5-1. 小豆色の赤身、黄色みのある脂をどう捉えるか
    2. 5-2. 霜降りのサーロインでは到達しにくい味の方向性
    3. 5-3. A5を否定しない。けれど、和牛の未来は一つじゃない

1. 憧れだったA5が、いま「身近」になった

1-1. 2000年と2025年で変わったA5の“希少性”

かつてA5等級の和牛は、ごく限られた存在でした。

2000年時点では、和牛去勢牛の格付結果におけるA5の割合は13%。それに対し、2025年は71%まで増えています。数字だけを見ても、A5が特別なものから、かなり身近なものへ変わってきたことがわかります。

20年ほど前、A5は簡単に出せるものではなく、現場では明確な目標でした。A5を出せたら祝う、という感覚があったのも不思議ではありません。それだけ希少で、価値のある到達点だったからです。

1-2. 品種改良と早期仕上げで起きたこと

この変化の背景にあるのが、品種改良と肥育技術の進化です。

サシが入りやすく、比較的早い月齢でも高い格付が出やすい牛づくりが進みました。いわゆる「早期仕上げ」が一般化し、短い期間で体をつくりながらA5等級まで持っていくことが、以前より現実的になったのです。

これは畜産業界全体が努力してきた結果であり、否定されるべきものではありません。むしろ、日本の黒毛和牛の品質を安定して高く保つための前向きな積み重ねだったと言えます。

1-3. A5が増えたのは悪いことではない。ただ、話はそこで終わらない

A5が増えたこと自体に問題があるわけではありません。

ただ、A5が増えたからこそ、別の問いも生まれます。A5であることと、本当にその人にとっておいしいと感じることは、いつも同じなのか。見た目の美しさや等級の高さだけで、和牛の価値を語り切れるのか。

私たち1129が黒毛和牛の経産牛で示したいのは、まさにその先の話です。

A5という基準を否定するのではなく、それとは別に、旨みの密度や食後の印象、赤身の味わいといった視点から、和牛の新しい基準を考えてみたい。そうした問題意識が、この取り組みの出発点にあります。

2. そもそも「A5」の意味は、意外と知られていない

2-1. 一般消費者は“等級表記の中身”まで理解していないことが多い

A5という表記は広く知られていますが、その意味まで正確に理解されているとは限りません。

実際には「A=良い」「5=最高」とだけ受け取られやすく、何をもってその評価が決まっているのかは、あまり共有されていない印象があります。

ご共有いただいた図でも、2000年にはA5の割合が13%だったのに対し、2025年には71%まで増えています。A5が増えたことで、表記としてのインパクトは以前ほど特別ではなくなりました。その一方で、消費者側には「A5ならおいしいはず」というイメージだけが残りやすくなっています。

2-2. Aは歩留等級:取れる肉の量という合理性

まず「A」は、歩留等級を表しています。

これは枝肉からどれだけ多く商品になる肉が取れるか、という“量”の評価です。つまりAだから味が良いという意味ではなく、歩留まりに優れているということです。

日本食肉格付協会の資料でも、牛肉の格付は枝肉の状態で歩留等級(A〜C)と肉質等級(5〜1)を組み合わせた15段階で表示すると整理されています。

ここを知らないままA5を見ると、「Aも5もどちらも味の評価」と思われがちですが、実際にはそうではありません。

2-3. 5は肉質等級:霜降りだけでなく色・きめ・脂も含む評価

一方の「5」は肉質等級です。

ここで見られているのは、一般にイメージされやすい霜降りだけではありません。肉質等級は、脂肪交雑だけでなく、肉の色沢、肉の締まりやきめ、脂肪の色沢と質も含めて判定されます。さらに、4項目のうち最も低い等級によって最終的な肉質等級が決まります。

つまりA5という表示は、あくまで規格として整っているかどうかを示す記号であって、「味そのもの」を直接表した言葉ではありません。

A5を否定する必要はありません。ただ、A5という記号だけで“おいしさ”まで言い切ってしまうと、そこからこぼれてしまう価値がある。私たちが経産牛で伝えたいのは、まさにその部分です。

3. それでも「等級=味」ではない理由

3-1. 等級は“規格”であり、味そのものを測る物差しではない

A5という表記は、歩留等級と肉質等級を組み合わせた「格付結果」です。つまり、流通の中で一定の基準をそろえるための規格であって、食べたときの印象をそのまま表しているわけではありません。

もちろん、A5等級の肉には見た目の美しさや、整った品質という価値があります。ただ、それがそのまま「その人にとって一番おいしい肉」と一致するかどうかは別の話です。

たとえば、脂の入り方が評価される一方で、食後の印象や赤身の旨みの感じ方、噛んだときの余韻までは数値化されていません。そう考えると、等級は重要な指標ではあっても、味のすべてを説明するものではないと言えます。

3-2. 見た目の良さが評価を独占すると、取りこぼされる価値がある

A5等級の魅力は、やはり見た目のわかりやすさです。淡い赤身に白い脂が細かく入ったピンク色の霜降りは、ひと目で高級感が伝わります。

一方で、そうした見た目に評価が集中すると、別のタイプの肉が持つ価値は見えにくくなります。たとえば、赤身の色がやや深く、脂の色も少し違う肉は、見た目の基準では不利に見えるかもしれません。しかし、実際に食べたときには、そうした肉の方が旨みの出方や食後の印象で好まれることもあります。

評価軸が一つに寄ると、それ以外の価値が説明されにくくなる。それが、今の和牛の見方に対して感じる違和感の一つです。

3-3. 胃もたれ、香り、余韻、噛むほどに出る旨みは別軸で存在する

肉のおいしさは、見た目だけでは決まりません。食べたあとに重たく感じるかどうか、脂の印象がどう残るか、噛んでいく中で赤身の味がどれだけ出てくるか。こうした点は、等級とは別の軸にあります。

私たちが黒毛和牛の経産牛に価値を感じているのも、まさにこの部分です。サシの量だけでは説明しにくい、旨みの出方や食後の印象。それらは格付表には書かれませんが、実際に食べた人の記憶には残る要素です。

だからこそ、A5という基準を認めたうえで、それとは別に「味としてどうか」を見る視点も必要になる。等級の高低ではなく、何をおいしいと感じるのか。その問い直しが、次の和牛の基準につながっていくのだと思います。

4. 1129が「黒毛和牛の経産牛」でやりたいこと

4-1. 経産牛は簡単じゃない。だからこそ価値を作れる

経産牛は、扱いやすい素材ではありません。見た目の評価では不利になりやすく、枝肉サイズや歩留まりの面でも、一般的な未経産牛や去勢牛に比べて効率が良いとは言えません。

だからこそ、ただ流通に乗せるだけでは価値が伝わりにくい肉でもあります。どの個体を選ぶか、どう仕上げるか、どの部位にどういう良さが出るか。そうした判断を丁寧に積み重ねないと、経産牛の魅力は出てきません。

1129が取り組みたいのは、経産牛を特別な言葉で飾ることではなく、手間をかけてきちんと仕上げた黒毛和牛の経産牛には、確かに価値があるということを、肉そのもので示すことです。

4-2. 再肥育と手間のかかる炊きエサで、旨みを“仕上げる”

私たちが扱う経産牛は、出産を終えたあと、そのまま出荷するわけではありません。再肥育という工程を経て、肉質を整えていきます。

その中で大切にしているのが、炊きエサです。国産の米ぬか・大豆・大麦・ふすまなどを独自に配合し、時間をかけて炊き上げた飼料を使います。手間はかかりますが、消化に配慮しながら、経産牛の体を整え、赤身の旨みを仕上げていくために欠かせない工程です。

経産牛は、もともと肉牛として一直線に育てられた牛とは条件が違います。だからこそ、最後の仕上げにどれだけ手をかけるかで、肉の印象は変わります。1129がやりたいのは、経産牛の弱点を隠すことではなく、手間をかけて本来の持ち味を引き出すことです。

4-3. サシの多寡ではなく、旨みの密度で評価される肉へ

格付の世界では、どうしてもサシの入り方が目立ちます。しかし、私たちが目指しているのは、サシの量で評価される肉ではありません。

赤身にどれだけ味があるか。脂がどれだけ重たくなく、全体としてどうまとまるか。噛んだときに味がどう出てくるか。そうした、数字に置き換えにくい部分を大切にしたいと考えています。

経産牛は、サシの多さでは勝負しにくい肉です。その代わり、旨みの密度という別の価値を持たせることができる。1129が黒毛和牛の経産牛でやりたいのは、そこをきちんと評価してもらえる肉をつくることです。

5. 経産牛が示す、新しい“おいしさ”のものさし

5-1. 小豆色の赤身、黄色みのある脂をどう捉えるか

経産牛の見た目は、一般的な未経産牛の黒毛和牛とは少し異なります。赤身は鮮やかな赤というより、やや深みのある小豆色に近く、脂も真っ白ではなく、少し黄色みを帯びることがあります。
ちなみにこれは、母牛として育つ間は肉牛とは異なる飼養管理が行われ、牧草などの緑の草を多く食べるため、その中に含まれるβ-カロテンの影響が脂の色に表れているのではないかと考えています。

従来の流通では、こうした色の違いは見た目の不利として受け取られやすい面がありました。ただ、それは「明るい赤身」「白い脂」が良いとされる基準の中での話です。

私たちは、こうした見た目の違いを、単なるマイナスとは考えていません。むしろ、長く生き、再肥育を経た経産牛だからこそ出てくる特徴として、きちんと理解してもらうことが大切だと考えています。

5-2. 霜降りのサーロインでは到達しにくい味の方向性

A5等級のサーロインが持つ、細かく入った霜降りの美しさや口どけの良さには、はっきりとした魅力があります。一方で、経産牛が見せるのは、それとは違う方向の味です。

脂の量で押すのではなく、赤身の味が前に出ること。食べたあとに重さが残りにくく、噛むほどに味が出てくること。そうした特徴は、霜降りの多い肉とは別の価値として考えることができます。

特に、サーロインやリブ、バラといった部位では、経産牛ならではの性格が比較的わかりやすく出ます。すべての部位で差が大きいわけではありませんが、部位によっては「この方向の味を求めるなら経産牛の方が合う」と言える場面もあります。

5-3. A5を否定しない。けれど、和牛の未来は一つじゃない

ここで言いたいのは、A5等級を否定したいということではありません。A5にはA5の価値があり、それを目指して積み重ねられてきた技術や努力も、間違いなく和牛の発展を支えてきました。

ただ、その基準だけで和牛の価値を語り切るのは、少しもったいない。見た目の美しさや等級の高さとは別に、赤身の旨み、脂の質、食後の印象といった基準もあっていいはずです。

1129が黒毛和牛の経産牛で示したいのは、まさにその部分です。和牛の未来は一つではない。A5というわかりやすい指標の先に、もう一つの“おいしさのものさし”があってもいい。私たちは、その選択肢を肉そのもので伝えていきたいと考えています。


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